昔のおはなしです。下奥富に弁天さまを祀る小さなお社がありました。その近くに大工仕事をなりわいとする「いっつぁん」という正直な男が住んでいまして、日ごろから弁天さまを大事にしてよくお参りに行っておりました。
ちょうど梅雨の季節に入り毎日、うっとおしい雨が振り続きました。そんなある夜のことでした。島田(女性の髪型で島田まげという)を結ったきれいな女の人が「いっつぁん」の夢まくらに現れまして、
『いっつぁんよ 弁天さまの屋根がこわれ、雨もりがひどくて困っておる、どうか直してくれ』
と言ったそうです。翌日はやく弁天さまの所へ行ってみますと、女の人が言ったとおりでした。ゆうべのは弁天さまの化身だったのかと念を入れて屋根を修繕いたしました。
その後、「いっつぁん」の家は弁天様を大事にしたおかげで、ますます栄えて幸せに暮らしたということです。この弁天さま、今はなくなりましたが、「弁天通り」という地名だけが残っております。
(広報さやま平成9年6月10日号より)
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