柏原にある円光寺は真言宗智山派の寺院で、本尊は木造の不動明王坐像です。同寺の創建は不明ですが、文政12年(1829)の「過去帳序文」によると仁安3年(1168)に学鑁が創立したとあります。
円光寺の銅造聖観世音菩薩立像は、地元鋳物師の神田氏の手により元亀3年(1572)に製作されたもので、像高は41.5センチメートルです。その姿は左手に未敷蓮華(つぼみのハス)を持ち、右手は指を伸ばして掌を前方へ向け、すべての恐れを取り除き衆生(人類を含むすべての生き物)に安心を与える施無畏印を結んでいます。
仏像の背中を見ると「円光寺庚申供養」と刻まれていますが、庚申信仰は3世紀ごろに中国の道教徒の間で成立した民間信仰の一つです。それによると人の体内には三尸という虫が棲んでおり、60日ごとに巡ってくる庚申の晩に人が寝静まるとひそかに体内から脱け出して天に昇り、天帝にその人の罪科を洗いざらい報告するというものです。そこでこの日は、三尸が天帝のもとへ行けないように一晩中眠らずに過ごす「守庚申」の習慣が生まれました。
この習慣は、やがて大陸へ渡った仏教徒により我が国へもたらされ、平安時代には朝廷や貴族の間で「庚申の御遊」と呼ばれるものに変化しました。これは庚申の晩に貴族が集まり、酒を飲みながら詩歌管弦でにぎやかに過ごすというもので、身を慎んで静かに夜明かしをするという道教が説くものとは全く異質なものです。しかし、こうした庚申の晩の過ごし方は、中世になるとやがて武家社会にも広がりはじめ、室町時代には仏教的な色彩も加わって庶民にも浸透するようになりました。
この聖観世音菩薩像は、こうした信仰の主尊として信者により造られたものです。
- 狭山市指定文化財〔有形文化財・彫刻〕
- 指定日:昭和61年(1986)11月1日
場所
所在地
狭山市柏原1027番地
円光寺
関連項目
社寺
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